やっぱり冬はお風呂でしょ パリセーズパークKing Spa その1
 

 

 

お風呂への熱い
思い今年の冬はあんまり寒くなくて、雨がよく降りますね。しかし寒いのに変わりはない。寒くなってくると、どうしても日本人が恋しくなるのがあったかーいお風呂や、温泉ですよね。アメリカに住んでいる日本人にとって「日本的なお風呂に入りたい!」という願望は、叶えられる可能性がとっても低くて、しばしば欲求不満に陥ります。まず自宅のお風呂は日本式にお湯に浸かる構造になっていないし、狭くて、浅い。家によっては湯船とトイレとの間に、水滴が外に出ないよう分厚いガラスの引き戸がついていて、開放的なお風呂気分さえ望めないところもあります。それに当然ながら湯船の外で体が洗えない。立ってシャワーを浴びながら手早く体や髪を洗い、流して終わり。この行為にいまだに戸惑いや「なんか違う」という気持ちを持つ人は、多いのではないでしょうか。

そうして自宅のお風呂に不満を持ち始めた日本人は、ヘルスクラブのジャグジーに行こうと思い始めます。あるいはわざわざバージニアやマサチューセッツなんかにある温泉地まで遠出するのです。それなら肩までゆっくり温かいお湯に浸かれて、泡ぶくぶくも楽しめる。でもアメリカのジャグジーは結局男女混合、水着を着用して入らなければならず、それはもはや「入浴」とは呼べません。そうでしょう、素っ裸でどぼんと入って、じっくり温まる、それこそが日本人の風呂の楽しみ方ではないですか!

そう、私もどれだけこの「ほんまのお風呂に入りたい!」という思いに悩まされたことか。だから日本に一時帰国したときには、実家に帰ったとたん、まず近くのスーパー銭湯(昔の銭湯よりも設備が豪華な銭湯のこと)に連れて行ってもらい、広々とした浴場やたくさんの種類のお風呂を堪能し、洗い場に腰を下ろして心置きなく隅から隅まで体を洗ったものです。そして露天風呂に入ったとき、ほてって濡れた体を自然の風がすうっとなでていくのを感じて、おぉ、これは何年も忘れていた気持ちよさだ!と感動しましたね。

・・・でもそんなスーパー銭湯のような場所なんて、このアメリカで見たことも聞いたこともありません。肩まで浸かれる湯船も、ゆっくり腰を落ち着かせて体を洗うことのできる洗い場も、広々とした浴場やさまざまなお風呂も、それにあの日本の健康ランド(スーパー銭湯をさらにグレードアップしたような「お風呂のレジャーランド」)のように数時間も楽しめるような場所なんてまさに夢の夢・・・とここまで読んで「うんうん」とうなずいていたあなた!ちゃんとあるんですよ!そんな夢のような場所が。しかもこのニュージャージーに!!

教えてくれたのはたんぽぽの友達S.Jちゃん。彼女は「よしみちゃん!キングスパっていうのがパリセーズパークにあって、韓国人の友達に連れて行ってもらったんやけど、めっちゃ気持ちいいねん!いっぺん行ってみて!その間子ども預かっといたるから!」と絶賛していました。私はアメリカに来てまだヘルスクラブにも行ったことがなく、ジャグジー経験も数えるほどしかありません。パリセーズパークといえば、NJ北部にある大きなコリアンタウン。メインストリートにはハングル文字の看板があちこちに並んでいて、おいしい韓国料理のお店も軒を連ねています。そのメインストリートからちょっと離れたところ、パリセーズパークのShop Rite(食品スーパー)すぐ近くにKing Spaがあるらしい。しかも聞けばこのスパ、あのニューヨーク有数のコリアンタウン・フラッシングから、韓国人がわざわざバスをチャーターして団体でやってくるくらい人気があるところらしいのです。これは行ってみないとあきません。早速Jちゃんに子どもを預かってもらい、パリセーズパークに向かいました。

看板のおばちゃんに釘付け

「何も持って行かなくていい」ということだったので、ほんとに何も持たずにぶらっと行ってみて、たまげました。まず建物が思っていたよりでかい!どこかのビルの1フロアくらいの大きさかと思いきや、3階建てのビルすべてがスパの施設のようです。そして私の目を釘付けにしたのが外の看板でした。見てください、この写真!この真っ赤に燃える「火」のマーク、そしてタオルを肩にかけて微笑んでるおばちゃん!セリフは全部ハングル文字なので何が書いてあるかはさっぱりわからないけど、「いやーーーっ、もうあんた、めっちゃめちゃきもちよかったでほんまに。また来なあかんわこら」なんていう呟き(しかもぜったい関西弁)が聞こえてくるような気がしませんか?いやもう参りました、この説得力ある表情はすごすぎる。「そら、行かなあきませんよね」と看板の前でおばちゃんに向かって強くうなずいてしまいました。スパに着いたらまず駐車場に車を預けます。入り口に立っているお兄さんに車を預けてもいいし、駐車場は近くなので自分で駐車場まで持って行ってもいいです(いずれにしても帰るときにチップ1ドルを忘れずに)。そして建物の中に入り、受付で入場料(大人1人30ドル)を払って、駐車場でもらった札を預けます。受付のすぐ横にロッカーの入り口がありました。入り口女性用横にバスタオルを巻いたものが山積みになっていて、一つ持っていけと言われました。平日の午後というのに、受付している間にも入り口にはひっきりなしにお客さんが訪れています。やはり噂通り、相当人気のようです。

 いよいよ浴場へ・・・

ロッカー室に入ってみると、とってもきれい。それこそ日本の健康ランドのようです。鍵はリストバンドにくっついていて、それをはめてお風呂に入るところも健康ランドと同じです。少し期待が高まってきました。丸裸になり、さっきもらったバスタオルの巻物を手に、ロッカーの奥に向かいました。浴場の入り口の前にはこれまた銭湯の下駄箱を小さくしたような物置の棚が並んでいて、ロッカーと同じ番号のところにその巻物を入れておくとのこと。巻物の中には、バスタオルの他に浴用タオル、ピンクのシャツと短パン、使い捨て歯ブラシが入っていました。確かに何も持ってくる必要なし。こんなところもますます健康ランドに似ています。さあいよいよ浴場へ。戸を開けたとたん・・・そこはまさしく「日本の健康ランド」!!右手には大きな円形の浴槽が3つ並んでいて、緑色のお湯や茶色い薬湯も見えます。奥にずらっとならぶ洗い場には、おばちゃんたちが洗い椅子にどっかり座って、和気あいあいと体を洗っています。右手奥にはサウナルームと大きな水風呂、そして一番奥の壁側一体には女の人がずらずらーっと10人くらい台の上に横になり、黒いビキニ姿のこれまたおばちゃんたちがせっせと垢すり、マッサージをしています。心地よい湯気が裸の体を包み、かっこーんという洗面器の音やざばざばという水の音がが浴場に響いていて・・・うわぁ、この懐かしい、心地のよい感覚は、一体なんなんだ?もう、このお風呂場の中に立っているだけで、ぞくぞくするような気持ちよさです。おっと、このままぼけっと突っ立っているわけにもいかないと慌ててかけ湯をして、浴槽に入ってみました。緑色の浴槽は意外にも水風呂で、茶色い薬湯はぬる目のお湯でした。しかし透明の浴槽は日本の銭湯並みの熱さだったので「これ、そう、これやねん!この熱さに包まれたかってん!」と心の中で大きくうなずきながら、一人悦に入って浴槽に沈んでいました。周りに見えるのは90%以上が髪の黒いアジアの女性。おそらくほとんどが韓国人でしょう。しゃべらなければ日本人なのか韓国人なのかわからない人が多くて、浴槽でボーっとしていると、ここはもしかして日本の銭湯なんとちゃうか、とさえ思えてきました。それくらい日本を思い出させるような環境なのです。これで日本の演歌でもかかっていたら、完璧なんだけどなぁ。体が温まったので洗い場に行って体を洗うことにしました。洗い場も日本とまったく変わりないつくりで、座ったときの目線の位置に鏡、その下には蛇口、上には取り外しのできるシャワーがついています。プラスチックの椅子と洗面器を取ってきて空いている場所に座り、受付で借りたタオルと目の前にある備え付けの石鹸で体を洗いました。うう、こうやってじっくり座って体を洗うなんて、何年ぶり・・・。洗い場のあちこちでは、「マイ垢すり」を持った女の人たちが、自分の体をこすっていたり、友達の背中をこすっていたりと、ともかく垢すりに夢中でした。あぁ、すっごく気持ちよさそう。私も持ってくればよかった、マイ垢すり・・・。次にサウナに入ってみました。女性の浴室内にはスチームサウナがあって、床には丸くて透明の石がたくさん敷き詰めてあります。みんなこの石を踏み踏みしながら汗をかいていました。私も少し挑戦。・・・うーん、確かに気持ちいいけど、これはいったいどんな効果があるんだろう?後から調べたら、これは麦飯石といって大量の遠赤外線を出すそうです。熱くなってきたのでドアを開けて外に出たら、なぜか目の前に白い紐が天井からブラーンと下がっているのに気がつきました。なんとなく引っ張ってみたくなって、ぐいっと引っ張ってみたとたん、じゃばーっと上から冷たい水が降ってきて「ぎえーっ!!」と思わずその場から飛びのきました。これはサウナから出てきた人の汗を流すための特設シャワーだったんですね。ついドリフの「天井から水の入ったたらいが落ちてくる」コントを思い出してしまいました。(その2に続く)

(たんぽぽ2005年11,12月号)