ドイルスタウン探訪(2) タイル工房と謎の城

 (前号よりつづく)さて、まだ私はペンシルベニア州ドイルスタウンという町におでかけ中です。クリスマスキャロル人形で有名なByer’s Choiceの工場・ギャラリーを訪れて「歌うクリスマスキャロル人形」をこれでもかと眺め、ティーハウスに寄ってつかの間の休憩を楽しみ、うきうき気分でドイルスタウンのダウンタウンに入りました。

 タイル工場見学

 Rt.202をNorth方面に進んでPA-313との交差点を左折すると、左手に目指す場所の看板が見えてきました。その看板に従って左折すると、前方になんとも趣のある建物が見えてきました。一つは平屋のような建物。もう一つは、ちょっとお城のような風情です。これが今日お目当ての建物たちなのです。 まずは平屋風の建物へ。壁は土を使ったもののようで、ごつごつした質感があって、なかなかいい感じ。これが看板にあったタイル工房でした(写真上)。中に入るとそこはタイルのお店になっていました(写真下)。手のひらに載るくらいの大きさから大きいものまで、形もさまざまなタイルが並んでいます。星座のシンボル、神話のモチーフ、動物、植物、昔のタイルのデザインを模したもの、などあって、これは迷った!本当にどれも魅力的なのです。しかも素焼きのもの、緑の上薬をかけたもの、茶の上薬をかけたもの、スモーク仕様・・・と、同じデザインでも仕上げが微妙に違っていて、デザインを決めてもまだ迷ってしまうのです。迷いました。散々迷いました。それで結局、「誰かにプレゼントする」という、あまりにも漠然とした目的をでっち上げて、たくさん買ってしまいました。あぁ、これからプレゼントする人を考えなければならないやん。あほやなぁ。 レジに行くと、これから館内ツアーが始まるとのこと。早速申し込んで、時間が来るまでまたタイルを見て過ごしました。そしてようやくツアー開始。お店の奥にホールがあって、まず見学者はそこに腰をかけ、タイル工房に関するビデオを見ました。しかし私には時間がない。時間がないことに関しては他の人には負けないという自信がある(どんな自信や?)。ここのツアーはセルフツアー(自分で勝手に見て回るツアー)だということで、5分くらい見てからそそくさと次のルートへと進みました。 先ほどのホール上部にあたる2階に上がると、タイルを作る釜がいくつも置かれていましたが、今は動かしていないよう。奥に続く階段を下りると、現在の工房に出ました。作業中のお姉さんが仕事を説明してくれました。今お姉さんがやっているのは2004年限定版の正方形型のタイルの型抜きで、石膏でできた型に土の塊を載せ、上からぎゅっぎゅっと押しこめます。そして上を平らにならして、サインをつけて、出来上がり。数分立ったら土が乾いて、型からはずれるので、それを台の上に載せて2週間くらい乾燥させるのだそうです。お姉さんの座っている奥の入り口に入り階段を少し下りると、土の貯蔵庫になっていました。ははぁん、なーるほど。そのお姉さんの奥では絵付けのお兄さんがいて、タイルひとつひとつに薬を塗る作業をしていました。机の前にいろいろな処理をしたタイルが置いてありました。ふんふん、面白いね。またその奥に行くと、窯がありましたが、誰もいなかったので、通り過ぎました。奥のドアを開けたら、あれっ、さっきのホールやん。なんともツアーはあっけなく終わってしまいました。

謎の城を探検

さてさて、お次は隣の城もどき、Fonthillに行ってみましょう。タイル工房から徒歩で2分程度。同じ敷地内にあるので楽です。ここは見学するには、「要予約」。そう、時間がないと言っていたのは、ここのボランティアガイドさんの予約があったからなのです。ついてくれたガイドさんは、チャーミングなおばあさん。これは楽しくなりそうです。 まずは大きな図書室に通されて、ううーむ、とうなってしまいました。私は中世ヨーロッパの城というものを見たことはないのですが、城ってきれいでつるつるしていて、豪華な感じがするもんだと思うのです。しかしここは、白灰色のごつごつした壁に、おびただしい数のタイルがべたべたと埋め込まれています。このごつごつ感は、どうも城のイメージとそぐわない。するとガイドさんが説明を始めました。 「この建物を建てたヘンリー・マーサーという人はドイルスタウンで生まれ育ち、両親と共によく旅をした。彼は大きくなったら自分の城を建てたいと強く思った。そして彼は建築学の知識もないのに、自分で城の設計図を書き、1908年から城の建築を始め、ドイルスタウンで当時行われていた手工業(タイル製作)に着目し、タイルで装飾を施すことを思いついた。彼は外壁に初期のコンクリートを使ったが、それは何よりも材料費が安かったからだ」 なんと!ごつごつ壁の正体は「コンクリ」だったとは!今のコンクリートとあまりにも違うから思いもよらなかった。「コンクリ」と「タイル」の組み合わせなんて、田舎の実家にある古い風呂場の、寒々しくてちょっと怖かった様子を思い出してしまうじゃないか。しかも「安いから」。これはかなり笑える。だからこんなに不思議チープな雰囲気が醸し出されているのね。そうまでして自分の城を作りたかったのか、マーサー。 「城は1910年に完成し、ヘンリー・マーサーはこの城で死ぬまで生活しました。城を快適にするため、彼は200以上もの窓をとって館内を明るくし、当時実用間もない電気を引きました。そしてラジエーターを各部屋に設置し、暖かくしました」そりゃそうだろう。コンクリとタイルだけじゃ、考えただけでも寒くて暗くなるわなぁ。でもその工夫の甲斐あって、今日外は結構寒いけど、それほど寒いとは感じない。館内は日の光にあふれているし、光の届かないところには昔タイプの電球が、裸のまま、しかもコードも思いっきり見えたままぶら下げられていて、部屋を明るくする役目をそれなりに果たしている。まぁそれも、不思議チープという意味で、雰囲気がある。 ・・・といろいろ思いを巡らしながら書斎を眺めたのですが、あちこちにちりばめられたタイルは素晴らしかった。書斎の暖炉には新世紀の物語がタイルによって描かれ、天井のアーチのタイル装飾もとても素敵でした。そしてこの書斎をスタート地点として、実に17のゲストルームと大広間、書斎、数々のバスルームにトイレまでガイドさんがくまなく見せてくれましたが、どこもしっかりとタイル装飾が施され、装飾にはそれぞれちゃんと物語があり、物語に合わせてタイルを作ったり、世界から収集したタイルコレクションを惜しげもなく使ったりしたそうです(中国製の「屋根瓦」も、ちゃんと廊下にあった!)。そういえば今まで見てきたタイル達、どこかで見たことがある・・・と思ったら、さっき見学したタイル工房に、同じ模様がありました。つまり、工房でレプリカを作って売っているのですね。あぁー、それなら城を先に見ておけば楽しさ倍増だったのかぁ!しくじった!!皆さんはぜひ城から見学して下さい。 ここがなぜガイドツアー付かという理由はいろいろとあるのでしょうが、もっとも大きな理由は「館内が非常に複雑で、ガイドなしには出られない」、これでしょう。外見と裏腹に、この城もどきは複雑怪奇なのです。増築したところも含め計5棟に分かれているこの城は、5階建てのところもあれば4階建てのところもあり、ぐにゃっとした階段で奇妙につながっていて、しかもひとつひとつの部屋はみな違う形で、どこがどうつながっているのか、地図を見てもほんとによくわかりません。よくこんな建物を作ったなぁと感心してしまいます。いやむしろ、建築学の知識がないからこそ、こんなへんてこ面白い建物が出来たんでしょうね。初めて訪れた人は、ガイドなしならまずどう進んでいいかわかりません。私なら3回くらい行っても、きっとここから出られないと思う。きっぱり断言します。子どもも大人もきっと癖になる面白さです。 本当はもっといろいろと館内の様子をお伝えしたいのですが、あぁ!もう紙面がないのでお伝え出来ません。ごめんなさい!外見はタイル工房の写真を見て想像してください。そしてぜひご自身の目で見て、体で面白さを体験してください!ここでアドバイスです。ガイドツアーというのは、ガイドさんとの相性でツアーの面白さが決まります。英会話が苦手でも、ガイドさんと「会話」するという気持ちで臨んで下さい。できれば混まない午前中あたりにツアーされると、1グループに1人ガイドがついて、自分のペースと興味に合わせて説明してくれるので、お得で楽しいです。 それから、ダウンタウンにはたくさんレストラン、カフェ、ショップが並んでいて楽しめます(焼きたてクロワッサンが買える店なんかもあり)。またマーサー氏が収集した、19世紀の生活用具コレクションを展示したMercer Museumも必見です!ゆっくりドイルスタウンを探検してくださいね。
Moravian Pottery and Tile Works
130 Swamp Road Doylestown, PA 18901 Tel: (215)345-6722
毎日10:00-4:45 ツアー大人3.50ドル

Fonthill Museum
East Court Street Doylestown, PA 18901
Tel: (215)348-9461  
月-土 10:00-5:00、日12:00-5:00
ツアーは要予約、 大人8ドル、子ども(5-17歳)3.50ドル

(2005年1,2月号)